日本で世界一の競争力を持っている産業はいったいなんだろうかと問われると、おそらく多くの人は自動車産業と答えるのではないだろうか。しかし、この四半世紀、一貫して世界最大生産高を誇ってきた産業が自動車産業ではない。それが、工作機械産業だ。日本の工作機械産業は1982年に米国とドイツを抜いて世界一の生産高に踊り出て以来、2008年のリーマンショックまで、なんと27年にわたって世界一の生産高を守り続けた。
現在では、中国が日本とドイツを抜いて世界一の生産高を誇っている。中国メーカーの猛烈な追い上げにより、その先に待ち受けるのは、間違いなくロボットのコモディティ化である。かつて、携帯電話業界で、“頭脳”にあたるOS (基本ソフト)を米グーグルのアンドロイドやアップルのiOSに奪われ、ハードウェアとしての携帯端末はコモディティ化した。その結果、日系端末メーカーは大敗北を喫した。その反省から、2016年中に、最大手のファナックは他社がアプリケーションを開発できるオープンプラットフォームの提供を始めた。「iPhoneのような存在を目指す」(ファナック専務、稲葉清典は言う)という。このプラットフォームでは、他社製のロボットもファナック製と同じようにつながり、一元的に動かしたり、遠隔監視したりできるようになっている。ただ、このプラットフォームを世界共通であり、誰でも利用できるようになるためには、まだ課題は山積である。
加えて、近年、ROS (ロボットオペレーションシステム)の誕生で、ロボットの制御、シミュレーションが容易になりつつある。技術の観点から見ると、携帯とロボットの違いは駆動があるかどうかのみである。両方とも、制御するCPUと複数のカメラ、センサーが付いている。
パソコンが誕生して、一人一台パソコンが持てるようになるのに20年近くかかった。iphoneが誕生してから、10年も立たないうちに、一人一台の携帯電話を持てるようになった。その鍵はやはり頭脳にあたるOSだと私は考える。そのため、世界共通であり、簡単に利用できるロボットのOSは誕生すると、その近い将来には、一人一台のロボットを持つ時代になるかもしれない。その日になるのを、本当に楽しみにしている。
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